
ヤング ブラック・ジャック
おすすめポイント
彼はなぜ闇医者へと堕ちたのか――
医療漫画の金字塔『ブラック・ジャック』より、若き日のブラック・ジャックを描く
当時の世界情勢を反映させたヒューマンドラマ
「スター・システム」により手塚治虫作品からゲストが多数登場
感想とレビュー
●ブラック・ジャックがまだ「間黒男」と呼ばれていた時代
「ヤング ブラック・ジャック」はその名の通り、漫画の神様こと手塚治虫原作「ブラック・ジャック」の主人公ブラック・ジャックが、まだ医学部生だった頃を舞台としたアニメである。時代は1960年台後半。大学闘争やベトナム戦争の影響が残る世情の中で、間黒男はなりゆきや事情から無免許での手術を行っていく。数多くの人たちとの出会いと経験により、やがて間は闇医者として成長して《堕ちて》いくというのが本作のストーリーだ。
そして本作の魅力はこの、当時の時代背景を色濃く反映した作風とヒューマンドラマにある。黒男が関係する手術の患者はベトナム戦争の脱走兵や生還兵、医大闘争の関係者や連合赤軍のリンチ被害者と当時の世情にリンクして非常に闇が深い。当時の状況を知らない若い世代が見ても、当時どういう状況だったのかが手に取るように理解できるのだ。
そんな中で若き青年間黒男がいかに苦悩し、そしていかに「ブラック・ジャック」になっていったのかに注目して視聴してみると本作をより深く楽しめることだろう。
●若き日のブラック・ジャックには当然、ライバルの若き日も描かれる
本アニメは若き日のブラック・ジャックを描いたアニメである。そうなれば当然、原作『ブラック・ジャック』にてライバルとして登場したキャラクターも若い頃の姿で登場しているのである。
『ブラック・ジャック』では安楽死専門の医者として「死神」の異名を持つドクター・キリコ。彼も米軍の軍医として「ドクター・キリー」の名で登場しており、無免許の黒男を助手として手術した際には先輩として指導する姿を見ることができる。若きブラック・ジャックと若きドクター・キリコ。この2人の出会いもまた、本作の魅力となるであろう。
また、ベトナム戦争の帰還兵トマス・ウィリアムズは戦地で出来事が原因でPTSDを患う。この後彼はアメリカで舞台役者となることが描写されるが、これが手塚治虫作品『七色いんこ』で主人公に多大な影響を与える登場人物「ピエロのトミー」に繋がっている。こういった他作品との過去の繋がりを示唆した内容に手塚治虫ファンならニヤリとしてしてしまうのである。
●スター・システムによりよみがえる手塚治虫作品の数々
本作の登場人物は手塚治虫作品でお馴染みの「スター・システム」を採用している。これは同作者の他作品に出てくる登場人物を、別の登場人物として登場させる手法である。例えば黒男の精神的支柱となる藪は『ブラック・ジャック』のエピソード「来るべきチャンス」に登場した綿引博士をモデルとしている。
さらにサブキャラクターでは黒人解放運動のリーダージョニーとその恋人ティアラはそれぞれ『アラバスター』のジェームズ・ブロックと小沢亜美がモデルであり、大学講師百樹丸雄と恋人の澪、患者の露々は『どろろ』からそれぞれ百鬼丸、みお、どろろがモデルである。このように多くのキャラクターが過去の手塚作品をモデルとしているのだ。
余裕があれば、いろんなキャラクターの原典を調べてみるのもいいだろう。こうしたことでより深く「ヤング ブラック・ジャック」の世界を楽しむことができるのである。
こんな人にオススメ!
・ブラック・ジャックが好きな人!
・手塚治虫作品が好きな人!
・冷戦期の世情を反映させた作品が好きな人!
スタッフ
監督:加瀬充子
シリーズ構成:高橋良輔
キャラクターデザイン・総作画監督:片山みゆき、三浦菜奈
制作:ヤング ブラック・ジャック製作委員会、TBS
キャスト
間黒男:梅原裕一郎
藪:遊佐浩二
岡本舞子:伊藤静
ナレーション:大塚明夫