サイコパス

感想とレビュー

●正義とは何か――本格ディストピアSF警察アニメの新星
本作は、『シビュラシステム』という管理システムに恭順した近未来の世界の理想と矛盾を描く、ディストピアSF警察もののオリジナルアニメ。
サイコパスの世界観を作り上げたのは、大人気刑事ドラマの監督として采配を振るう本広克行氏と、葛藤や理不尽さ、悲劇性の強いシナリオを得意とする虚淵玄氏という異色のタッグ。警察ものというジャンルの中から、人間とはどうあるべきか、正義とは何かという、普遍的ながら奥の深いテーマを『シビュラシステム』という存在を通して視聴者に投げかけてくるような作品になっている。
主人公は執行官の狡噛慎也。しかし、物語進行上はほとんどがヒロインの監視官・常守朱の視点で語られており、狡噛はあくまで作品の中心人物として据えられている。

●生き方をシステムの判断に委ねた、間違いのない世界
作品内で圧倒的な存在感を持つ『シビュラシステム』。
その影響力は国民1人1人の日々のメンタルケアから適性のある職業選びまで多岐に渡り、その最たる例が『潜在犯（犯罪者となりうる人間）』の判定である。
本作は警察アニメであり、犯罪者を取り締まるというのが狡噛ら公安局刑事課の職務であるが、目の前の人間が犯罪者であるかどうかを判断するのはあくまでシビュラシステムであり、執行官や監視官はシビュラに従って引き金を引く役割――というのが本作の重要なポイント。ここに大きな矛盾や疑念、葛藤が多く生まれ、ヒューマンドラマとなっていく。
当初はシビュラを信用していた朱だったが、監視官として取り締まりの現場に触れることでシステムの異様さに気づいていき、狡噛の考えに触れるうちにその在り方に疑問を抱いていく。
最終的に朱は『シビュラシステム』の正体に迫っていくことになるが、その実態は是非視聴して確かめてほしい。

●細部まで書き込まれた、圧倒的なスケール感
実写的な表現をふんだんに取り入れた本作では、アニメーションというより実写映画といった風味が強い。それはカメラワークであったり、背景の情報量であったりと様々な部分から感じることができる。
カメラを回して風景を撮影するだけでありとあらゆる情報が飛び込んでくる実写とは違い、アニメーションで同じように世界の厚みや説得力を出すために、どれほどにスタッフが労力を費やしたのかは想像に難くない。キャラクターが居る・居ないに関わらず空気感で引き込まれる感覚は、本作ならではのものだろう。
作品としてはサイバー感は殆どなく、シビュラ関連を除けばおおよそ現代に近い世界であるがゆえ、一見すると近未来SFというジャンルの中では地味な部類に感じるかもしれないが、現代に近いからこその、地に足がついた描写や現実感を楽しんでほしい作品だ。