アクセルワールド

感想とレビュー

■ソードアート・オンラインの作者が贈る仮想現実バトル

オンライン小説からの書籍化と言う流れの基礎を築き、ライトノベル作家としての金字塔を打
ち立てた川原礫の看板作品の一つを全24話のボリュームで描いたのが本作である。

仮想ネットワークが発達した2046年の東京を舞台としており、絶妙なさじ加減で語られる近未
来像は単なる絵空事ではなく、肌で感じられる程のリアリティを伴っている。

近未来を題材とした特性上「ニューロリンカー」「ブレインバースト」を始めとした多数の固
有名詞も出てくるが、物語の主題は主人公、ハルユキの成長を軸に据えられており、設定や単
語の羅列に陥ることも無い。

また、バトルにおいても体力ゲージが表示される、必殺技ゲージを貯めて奥義を放つ等、対戦
格闘ゲームが下地にあるため、すんなりと作品世界に没入することが可能である。

■思わず応援したくなる、ゼロからスタートする主人公

主人公のハルユキは身長が低く、肥満体型、性格も内向的と、主人公らしからぬ諸々の要素を
備えており、いじめの対象になる事すらもあったが、そんなハルユキにとある才能を見出した上級
生、黒雪姫に手を引かれ、現実世界のすぐ裏に広がる加速世界での戦いに足を踏み入れる事と
なる。

これまでの過去から卑屈な面を見せる事が多々あるハルユキだが、仲間思いで一途な性格をしてお
り、得意とするゲームで鍛えられた機転、ここ一番で見せる芯の強さと勇気は間違い無く主人
公としての資質を備えている。

そんなハルユキが迷い、苦しみ、それでも歯を食いしばって壁を乗り越え、最後には勝利を掴む王
道な物語を、巧みなストーリーテリングや個性豊かなキャラ達で展開するため、次の展開が気
になり、全24話があっという間に終わってしまう事は受けあい。

また、ゲームに対して真摯に向き合う春雪や黒雪姫の生き様は、ゲーマーを自負する人には是
非触れてみて欲しい。

■その後も続くアクセル・ワールドの世界

現時点(2016年3月)での既刊19巻中、アニメで描かれるのは4巻までとなるので、原作に触れて
ハルユキ達のその後を追う事も可能。また、アニメに関しても、4巻以降のエピソードを一部組
み込んで展開の補強を行う工夫も見られるので、アクセル・ワールドの世界に足を踏み入れる
入門書としても最適とも言える。また、2016年 7月には劇場版も公開される等、更なる展開を
広げているので、アニメ視聴後も引き続き世界に浸れる、懐の広さを備えた作品である。