ゆるゆり

感想とレビュー

●ここが楽園！　ごらく部
ゆるゆりは部活アニメである。　しかし、そこにはスポ根もクリエイティブな精神もない。
目標も大会もなく、仲が良いもの同士でまったりと過ごす日常があるだけなのだ。
ごらく部の部室は、かつて茶道部の部室であり、校舎とは離れた場所に建てられた和室。いわば異空間である。
授業のわずらわしさからも、進路の心配からも、定期試験のプレッシャーからも解放されたこの空間で、ヒロインたちはのびのびと過ごすのだ。
誰もが心の中で望んでいた楽園が、このアニメには存在する。

●こいつらといると楽しい！　個性的な仲間たち
　楽園空間があっても、一人で過ごしていては何の意味もない。　ごらく部には、その楽しさを裏付ける仲間がそろっている。
　後先考えず好き勝手に行動しトラブルを起こしまくる歳納京子。
　その京子にツッコミを入れまくるイケメン女子の船見結衣。
　その結衣に恋い焦がれ、腹黒いけど間の抜けたアプローチをしては失敗を繰り返す吉川ちなつ。
　この四人がごらく部の部員であり、見ているだけでゆるっと出来る毎日を過ごしている。
　だが、ごらく部を訪れるのは彼女たちだけではない。　廃部に追い込もうとする勢力も存在するのだ。
　それが副会長の杉浦綾乃をはじめとする生徒会のメンバーである。
　ただし、実際にごらく部が廃部に追い込まれる、あるいは危機感を感じるような場面はない。
　なぜなら、綾乃はごらく部のリーダー的存在である京子が大好きなツンデレ娘であり、京子に構って欲しくてごらく部に来ているだけだからだ。
　他の生徒会メンバーも、京子と綾乃の百合妄想をしては鼻血を出すのが主業務の池田千歳や、次期生徒会副会長の座をめぐっていつも意地を張りあっているものの実はお互いが大好きな大室櫻子と古谷向日葵。　声が小さすぎて何を言っているのかわからない生徒会長の松本りせなど毒にならない少女たちばかりである。
なお主人公は赤座あかりであるが、ひたすらに影が薄いという不遇なキャラ付けである。

●タイトル通りにゆるっとゆり
この作品の原作は『コミック百合姫S』（一迅社）に掲載されていたものである。
同性愛を専門とするコミック雑誌の中にあって、ゆるゆりは極めて薄味、どろどろした恋愛の駆け引きや、背徳の愛に対する悩みなどは存在しない。
誰が誰の事を好きかは明確だし、三角関係も大量に存在するのだが、それはあくまでコメディの味付けなのである。
エロスも偏愛もない。　
唯一の例外が主人公である赤座　あかりの姉あかねの妹に対する偏執的な愛である。　彼女は妹のパンツを頭にかぶって部屋で過ごすような純度100%の変質者！　だがあかりは、その事に気づいていない。　優等生で優しい姉だと思い込んでいるのだ。
気付かなければ罪もない、誰も傷つかない。
罪も迷いもない背徳の恋がこの作品のあちこちに浮遊している。
なお、背徳感が薄い理由には、この作品には男性がほぼ全く登場しないからだというものがある。
スタッフは徹底して、独特のゆるゆり空間を作り出しているのだ。