すべてがFになる

感想とレビュー

●天才博士の残した言葉の意味と、密室殺人の謎に迫る
絶海の孤島にある研究所。そのなかに15年も前に扉を閉じたきり一度も開いていない研究室があるのだが、そこから突然ウェディングドレスを着た真賀田四季の死体が出てきた。
部屋に出し入れする物品も、出入り口も、何もかも監視されているのに、どこにも何も怪しいものは映っていない。そんな完全密室殺人の謎に、犀川と萌絵の理系コンビが挑むミステリー作品。
プログラミングや数学を中心とした専門知識を多用し、事件の真相を解明していくのだが、
偶然に起こることは皆無に等しく、そう見えるものも実は誰かの計算の上で起きたものである…といった必然の事象が多い。
そして殺された真賀田博士がのこした「数字の中で7だけが孤独なのよ」「すべてが、Fになったら」という謎めいた言葉たちの意味。
この不思議な言葉に惹かれた人も多いと思うが、これもまた事件が起こる過程で重要な意味を持つキーワードであり、展開に深くかかわってくるのである。

難しすぎる用語と展開をうまくカバーする映像表現
理系ミステリーというだけあって、計算や専門知識を用いるシーンが多数存在するのだが、原作は「この辺の知識はあるよね」「あなたもこの計算できるでしょ？」というテンポで専門用語が飛び交い、あまりの意味の分からなさに読むのをあきらめかけた時もあった。
しかしアニメでは、言葉だけでなく映像として説明を補足してくれるので「あんまりわからないけどこんな感じなのか」ぐらいのノリで視聴しても問題なく、ハードルがぐっと下げられたような気がする。
計算や図解、デジタルの世界をスタイリッシュに演出し、補足要素として本編の会話に織り込むことによって、会話が続くシーンを単調には見せない。背景美術や空間デザイン、彩度を低くした色彩による無機質さも個人的に好みだ。
また全編をプログラミングで作成しているというED映像も本作ならではの試みと言えるだろう。
そういうところで手は加えられているが、話自体はおおよそ原作通りに進むので、原作ファンもそうでない人も難しく考えずに楽しめる作品だ。

●理解され難い真賀田四季の想い　彼女の考えにより深く迫る「四季シリーズ」も
表題作「すべてがFになる」のスピンオフ的存在である「四季シリーズ」。
この「四季シリーズ」のストーリーも話に組みこまれている。
四季が殺された後の世界に、四季がまだ生きていたころの話を重ねて進行させることで、犀川や萌絵が解明した事象に＋αで理由付けがされるように感じる。そして、四季がどのような人物だったかという部分にも迫る。
恐ろしく天才で、それゆえに孤独だった四季。そんな彼女の人間っぽさや、「天才だから」で終わらせることのできない事件の背景があることで、おもしろさと深みが増しているのだと思う。

●犀川と萌絵、そして四季。3人の関係性
幼いころに出会い、尊敬を抱き、両親のことで深い悲しみに暮れていたときに救ってもらい、いつしか萌絵の中に生まれた「犀川先生と同じ景色が見たい」という望み。
その犀川が萌絵に贈った「それは君にしか見えない景色だ」という賛辞の言葉は、犀川が萌絵を尊重しているから言える言葉だと思うし、萌絵にとっても視聴者にとっても、感動的なセリフだ。
そんな犀川の「真賀田博士の見ている世界を見たい」という望み。理解され難かった四季にも、見たい景色があったのだろうか。人間として互いを尊重しあうフェアな彼らの姿にも注目したい。